悔しい映画

映画を観て「悔しい」と思ったことがありますか?

私は最近自分の中の映画に対する「悔しい」という感情を自覚して、まだうまく説明できないけど腑に落ちたなと思うので自分の整理のために書いてみます。もしかしたらもっと適切な言葉があるのかもしれません、今のところ「悔しい」がしっくり来ています。

わけわからん部分もあるかもしれませんが、私の感情の話なのでご容赦ください。共有したいとかではないですが共感が得られたら嬉しいです。勿論共感できなくても大丈夫です。

 

※この記事は映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」「82年生まれ、キム・ジヨン」「ジェニーの記憶」の内容に触れています。

ネタバレになる箇所もあるので前情報なく鑑賞したい方は読むのをお控えください。

 

 

 

 

 

 

 

2020年末に「ジェニーの記憶」を鑑賞。

ドキュメンタリー作家の主人公のジェニーはある日母親から、ジェニーが13歳の頃に書いた文章が発見されたと電話をもらう。成人男性と性的関係を持ったことが記されており母親は悲しみ、怒っている。ジェニーにそんな記憶はなく自らの意思で成人男性と親密になったと思っていたので困惑し、自ら過去を捜査し始める。監督の実話を映画化。

未成年に対するグルーミング行為で記憶の抑圧を引き起こさせており、こういう事があるから性的同意年齢の引き下げなんて頭のおかしい奴じゃないと賛成しないだろと強く思う訳なんだけど、この映画を観た時まだ「悔しい」と感情に名付けられずなんとも暗澹たる気持ちだった。

 

 

22/5/17、「プロミシング・ヤング・ウーマン」を鑑賞。

観賞後、日本版のポスターに書かれたコピー「元医大生キャシーの怒りはまさに限界突破 これは予想を鮮やかに裏切る、復讐エンターテイメント!」に強烈な違和感。倍速再生で飛ばしながら観た人のレビュー読んだ人が観ずに書いた?

絵作りのポップさに印象が引っ張られるだろうけど全然隠せてない漏れ出る憎悪と諦めと悲哀、これ観て感想が「主人公がサイコ女」「女って怖い!」になる人がいたら教えてください。関わりたくないので。

 

キャシーが弁護士を訪れた時、感情が昂り懺悔しながら詰め寄ってくる弁護士(男性)にビクッとしてるキャシーを見て「何も起こらないで」と祈った。自分が悪いのに逆ギレして暴力に訴えてくる人間はいる、そしてそれが身体男性で自分が身体女性の場合ほぼ勝ち目はない。密室に2人きり、恐怖。泣きながら縋られてキャシーは赦したけど弁護士が逃れたいために嘘をついたかもしれない、でも嘘だと思っても暴力を振るわれるかもしれないからわかっていても赦したのかもしれないと深読みした。

結果ラストシーンで弁護士はきちんと通報して嘘じゃなく後悔してることがわかって少しだけ良かったと思った。

 

で、「悔しい」と思ったのはこれだけじゃないけどここで、めちゃムカついてるし相手が悪いのにこっちが割を食わないといけない事が生まれながらの性別で決まっている。それに声を挙げても結局口を塞がれてしまう。自覚がなくて「あ、昔のあれもそうだったのか」と数年越しにわかって、その時はもうどうしようもなくなってたり、相手は全くなんの影響もないまま幸せに過ごしている事。

 

そしてそれが映画の中だけのフィクションじゃなく、大小あれど現実で毎日のように起きているということ。

「胸糞悪い映画」「最悪な奴が出てくる映画」はそのまま差別構造の下にいる人間にとっての「あるあるネタ」「日常系映画」だということ。

だから観てて「わかるよ、あるよ、あったよ」の共感が込み上げて、「それをなんとも出来なくて似たように虐げられてる人が自分以外にも沢山いるんだ」で悔しくて涙が溢れる。これが大袈裟と思える人は被害を受ける側にならずに幸せでしたねと思う。

 

キャシーはやはり男性の力には勝てず(男性の片手は拘束されたままにも関わらず)殺害されてしまうんだけど、殺した男が「ひどいことをしてしまった」じゃなく「婚約者や会社にバレたらどうなるんだ」で、隠蔽を進める友人も「事故だよ、お前は悪くない」と慰めるのも見てとても「悔し」かった。キャシーが前もって準備していたから明るみになったけどそうじゃなかったら迷宮入りして加害者はそのまま人生を過ごしたのか。「ムカつく」もあるけど「悔しい」のかもしれないと思った。

 

 

22/5/18、「82年生まれ、キム・ジヨン」鑑賞。

前日のプロミシング・ヤング・ウーマンと似たテーマだけど殺人も起きないし画面のポップな味付けがないため「日常系地獄」が際立つ。

チリも積もれば山となるを体現したような映画ででもこれも「あー映画で良かった」で終われない「いやあるあるじゃん」と血反吐を吐きたくなる。「映画はかなりマイルドになってる、原作の切れ味を体感すべし」と友人から聞いて気絶しそうになる。今度読みます。

映画レビューアプリで思いの丈を綴ったのでブログではこの位にするけど、これもまた「悔しい映画」だった。

 

※追加 Filmarksの自分のレビューをこちらにも貼っておきます。画像です。

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テーマが重かったり暗かったり、ハッピーエンドじゃない映画って「面白かった」「良い映画だった」「考えさせられる映画だった」は思ってるけどなんか表現としてしっくりこなくてずっと個人的な表現としてモヤモヤしてたんですが、「悔しくなる映画だった」は自分の中で今後出番が増える感想になりそうです。

「悔しい」映画が「ムカつくけどフィクションだから面白かった」映画に感情が変化できるように、社会構造も変わっていくといいですね。ていうかこういう被害者がいなくなったら映画のテーマにもならない時代が来るのかな。だって胸糞悪いだけだもんね、今みたいに問題提起としてわざわざ作らなくても誰も差別や加害をしない世界なら純粋にエンタメとしての映画ばかりになるのかな。まあ無理だろうな、悔しいね。

わかりやすくエンタメとしてパッケージングしないと届かない、したとしても観ない人は一生観ない、無関係だと思ったままの人がいる。悔しいね。

 

 

友人とプロミシング・ヤング・ウーマンの感想を言い合ってる時に、最後キャシーがネーム入りのネックレス託したの良かったねと話したら、「この映画自体が私たちにとって名前のネックレス」と言っていてそれがとても良かったので最後に記しておきます。ムカつく事に黙らずにどんどんうるさく言ってくぞ!